HOMEへ戻る

文章保管庫へ戻る


<1〜起〜 へ>
彼女と彼氏と恋敵? 2〜承〜

 キーンコーンカーンコーン♪
 朝六時のチャイムが鳴った。起床の時間だ。
 既に服に着替えていた私は、チャイムと同時に全速力で走り出す。
 思い切り腕を振り、足を上げ、限界まで速度を上げる。曲がり角では、角の柱につかまり、勢いで90度ターン。女子寮を出て、食堂を過ぎる。今はただ、男子寮への道だけが私の目に映る。
 何故男子寮?
 祐介に会うため。
 何故走って?
 アイツに勝つため。
 男子寮の前で靴を脱ぎ捨て、一気にラストスパート。
「ぐえ」
 あ、なんか踏んだ。
「酷いっしょ! ひき逃げっしょ!」
 なんだ、妖怪エロ豚男爵か。ならセーフ。
 見えてきた、「高崎 天神」と書かれた部屋。部屋の前には誰もいない。
 よし、勝った!
 ぜぇぜぇと息をしながら、祐介の部屋のドアを開ける。
「お、おはよー! ゆ」

「いやぁぁぁぁんっ! まいっちぃぃぃぃんぐ!」

 ドアの先にあったのは、祐介の笑顔、ではなく、祐介のルームメイト、天神泰三のうっふんお色気お着替えタイムだった……。
 一気に血の気が引いていくのがわかる。
 絶句し、その場にへたれ込む私。
 駄目よ、負けちゃ駄目、私! 今こそ勇気を出して! さあ、祐介を呼ぶのよ!
「……ゆ、ゆう」
「祐介ー、いるかー?」
 私の後ろから響く声に、ひょっこりと、祐介が顔を出す。
「今日も続き、するだろ?」
「おう、樹か。飯食ったら行くわー」
 ……。今日も負けてしまった……。
 キッと後ろの小林を睨みつける。普通の男子ならこれ一発でたじろぐはず。だけど、この男には効かない。ふふん、と私の視線を余裕でかわしながら笑っているように見える。
 やっと私に気が付いたのか、祐介が話しかけてきた。
「ん、双葉、どうした?」
「んーん、なんでもない……」

 ここ数日こんな状態だ。祐介に話しかけようとして、今のように小林に邪魔される。きっと天神をあそこに配置したのも小林だ。
 そして、私より先に小林に呼ばれた祐介は、ご飯の時以外夜遅くまで小林の部屋から帰ってこない。
 最初は気のせいだと思った。でも違う。小林は、わざと私と祐介を会わせないようにしてる。間違いない。
 何故そんなことをするのかしら。祐介に聞いてみたら良いのだけれど、なかなか言い出せない。だって、友達との付き合いだってあるだろうし、そんなことに私が口を出すわけにはいかないじゃない。変に思われても嫌だし。
 よって、聞くわけにはいかないので、覗くことにした。


 ……ただ今朽木レポーターは、小林の部屋の外におります。窓の下であります。
 早速、中を覗いてみましょう。……って、カーテン閉まってるじゃないの、昼間なのに。不健康キッズね。カビが生えちゃうぞ。
 しょうがないので、音声だけでも聞いてみます。幸いここはオンボロ男子寮。声は外に筒抜けであります。
「あ、駄目だ……」
「祐介は下手だなあ。もっとこう優しく……ほら」
「あぁ、上手い……」
「でも、祐介のも荒々しくていいよ」
「……樹」
 ……え?
「い、樹! こんな太いの絶対入らないって!」
「落ち着けってば。ゆっくりやるから――もう少し・・・っ!」
 え、祐介が受け?
 いやいやいやいやいや。それはどうでもいい!
「どうでもよくはないですよー。どっちが攻めかは重要です」
 美南さんがちょっと怒った顔で言ってきた。

 ……って、美南さん!?
「な、なんであんたがこ、むぐっ!」
 突然美南さんが私の口を押さえてきた!
「静かにしていないといるのがバレちゃいますよ」
「むぐぅ……」
 それもそうだ。気を付けないと。
 で。それにしても、だ。
「なんであんたがここに?」
「日課の散歩ですよー」
「なんでまたこんなとこを」
「ふふふ、この辺を歩いているとですね、良いものが見られるんですよ」
「こんなとこに何があるってのよ」
 ふふ、と微笑みながら、小林の部屋を指さす美南さん。
 ……? なに? え?
「さすが元男子校ですね。来た甲斐がありましたよー」
 え、ま、まさか。

「ボーイズラヴ、ですよう」

 ……。やっぱりですか。そうですか。
 美南さんによれば、何組かのカップル(こういうのもカップルっていうの?)がこの学園にはいるらしい。美南さんは、それを全部丹念に裏を取って調べたと言う。
「私の情報網は完璧です」
「はあ……」
 それにしても。
 これで小林が私より先に祐介を呼んで連れて行く理由がわかった。小林は祐介が好きで、少しでも祐介と長くいたいからね。祐介を独り占めしたいのね。
「ただ、変なんですよ」
 と、美南さんが言う。
「この二人、前から仲が良い風に見えてはいたんですけど、それはあくまで友情、みたいな感じがしたんですけどね」
「え?」
「それが最近になって、急に態度が変わったというか、小林先輩が高崎先輩に接近するようになって……」
 へえ。そうなのか。
「ということは、前からこんな、なんというか、変な関係じゃなかったってこと?」
「そうですね。ここ数日ですよ、こんなに仲が親密になったのは」
 それに、と美南さんが付け加える。
「いつもはこんな濡れ場みたいなことって聞えないんですけどね。二人で仲良く何かをしているって感じでした」
「へえ……」


 美南さんと別れ男子寮を後にした私は、グラウンドそばのベンチで、部活する人をぼーっと見つめていた。見つめながら、頭でさっきまでのことを整理する。
 最初は二人がその、おホモだちかと思ったんだけど、どうやらすんなりそうではないらしいわね。ただ、少なくとも小林は祐介に気がある気がする。これは私の女の勘ってやつも混じってるんだけど。
 それと、祐介は何を考えているのかしら。小林の気持ちも知っているのかな。それなのにあの部屋に毎日入り浸っているの? だとしたら、祐介も気があるってことに……。いや、そんなことは無いはず……。
 あーっ、もう!
 こんな、うじうじ考えているのなんて、私の性に合わないわ! 行動あるのみよ!
 小林を問いつめてやる。そして、祐介を取り戻すのよ!
 ベンチからすっくと立ち上がった私。
 ふんふんと鼻息も荒く、小林の部屋に向かうのであった。

−続く−

<3〜転〜 へ>