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彼女と彼氏と恋敵? 1〜起〜
「ん……、ぁん」
祐介の舌が私の歯と唇の間を丹念になぞっていく。
「んはぁ……んっ……」
私も負けじと上の歯の裏を攻める。
よしよし、息が荒くなってきた……。
「んぁ……ん……」
腰に回していた祐介の手が私のお腹へと回ってきた。そして、そのまま上の方へと上っ
「それは行き過ぎよアホォォォォォォォ!」
「ぐぼらっっっ!」
私の「スペシャルローリングクレイジーエルボー」が決まる。
ただの肘うちだけど。
ローリングしてないけど。
「こんな道の真ん中で何やろうとしてんのよっ!」
そうなのだ。ここは鐘ノ音学園校舎と学生寮を繋ぐ細い林道。いくら人気の少ない夕方を狙ったからって、そこまでは行き過ぎでしょ。
「いや、いい雰囲気になったから、いいかなーって……」
「いいはずあるわけないでしょ!」
怒った(ふりをした)私は道を先にずかずかと歩き始める。
慌てて祐介がついてくる。
「悪かったって。もうしないから!」
こうして高崎祐介は、私、朽木双葉に頭があがらないわけなのです。ふふ。
ここ、鐘ノ音学園に私がはじめて訪れたのは去年の夏。2年生だった私は、ひょんなことから高崎祐介と恋に落ちた。
先に好きになったのは私。だけど、容姿端麗な私に祐介もすぐにメロメロ(死語)になった。
こうして二人のピュア・ラヴ・ストーリーがはじまるかと思ったけど、私たち女子は共学化に向けた1ヶ月の試験編入だったから、二人は離ればなれになってしまった。
だけど私は負けなかった。晴れて共学化となった今年の春。私は再び鐘ノ音に帰ってきたのだ。
再会した二人は、離ればなれになって募っていた恋心が一気に燃え上がり、それはもう、
「見ているこっちが恥ずかしくて、逃げ出しちゃいそうになりましたよー」
と、妹に言わしめるほどのべたべたっぷりだったらしい。私たち当事者にはまるでわかんなかったけどね。
今は少し落ち着いた感じ。言うなれば安定期?
祐介の手綱の引き方も大分わかってきて、私が上位に事を進められるようになった。
それでもやっぱり、要所要所は結局祐介にリードされる私。でも、そこがまたいいのよね。くやしいけど。
いざというとき頼りになる人が欲しい。前はそんなこと考えたこともなかったのに。というより、何でも私一人でできると思っていた。けど、現実はそんなに甘いもんじゃなくて、一緒に手伝ってくれる人が欲しいもので。それが私には祐介だった。
でも、それを祐介に言ったことはない。
そんなこと言ったら、祐介が益々強引になっちゃう。それは困る。でも、困るけどそうなってもいいなと思う自分がいたりして、乙女心は複雑なのです。
そろそろ夕食の時間なので、二人で寮へと戻る。
木々のざわめきと蝉たちの大合唱が響く中、ゆっくりと歩いていく。そのうち、どちらからともなく手を繋いだ。手のひらから祐介の体温が伝わってきて、ほっとする。
「そういえばさ、祐介」
「ん?」
「夏休みも、もう終わりだね。短かったぁ」
「そうだな」
夏休み、私たちはお盆にだけ帰省して、それ以外はずっと鐘ノ音で過ごした。だって、一ヶ月も祐介と離れたくなかったから。祐介も同じ事を考えていたらしく、二つ返事で快諾してくれた。
「色んな事したなあ」
「みんなで花火持ち寄って花火大会したこととか?」
「いや、それもそうなんだけど」
はて、他に何かあったっけ? 毎日散歩したり、おしゃべりしたりはしたけど、そんなイベントぽいものは他には無かったはず……。
「誰もいない校舎でしたこととか、誰もいない温泉で致したこととか、深夜の双葉の部屋でやったこととか……」
――っ!?
「な、なななな、何仰っちゃってるのよ!?」
私の耳がかあっと熱くなるのがわかった。
「いやあ、いい思い出だなあと」
「この、おたんちぃぃぃぃぃぃぃん!」
「ぼるばっっっ!」
私の「グレイトファントムブロー2」が祐介のみぞおちを深くえぐった。
幻影でないけど。
1は無いけど。
「そういうことは口に出して言うものじゃないって、いつも言ってるでしょーがっ!」
「ふ、ふぁい……」
すたすたと歩き出す私の後から祐介がひぃひぃ言いながらついてくる。
全く、学習能力が無いんだから……。
「おーい、高崎ー」
寮の方から誰かがやってきた。
「あら、小林」
「どうした、樹?」
小林 樹、私たちのクラスメイト。その端正な顔と少年的な華奢な体のせいで女子に凄い人気だ。それを疎ましく思っているのが、また人気を呼ぶらしい。私から見たらどうってことないけど。
その小林が、私の方をちらりと見てから、祐介に言った。
「例のアレの事なんだけど、さっき頼んでおいた物が届いたんだ」
「おお、そうか!」
例のアレって何のことかな?
「だから、夕メシの後にでも俺の部屋に来てくれよ。丁度毒ガスもいねぇし」
「おう、わかった」
人に見られたくないこと? 恥ずかしいこと? ……なんか気になる。
「祐介、何のこと?」
「……な、なんでもねぇよ」
あやしい。明らかに挙動不審だ。ここは拳で言わせたほうがいいかな。それとも泣き落とし?
「まあいいだろ、朽木。悪いことはしてないからさ」
むぅ。小林に水を差されてしまった。
まあ、いいか。そんなに心配することでもないでしょ。それに男の子には、女の子に知られたくないことが二つや三つあるだろうしね。
「さ、もうメシだ。行こうぜ、双葉、樹」
三人で食堂に向かって、少しだけ暗くなり出した林の中を歩き出した。
三人で話しながら帰る。……つもりだったんだけど、祐介と小林がずっと話していて、私が入る余裕が無かった。なんか祐介を取られた感じ。小林は男子なんだから、そんなことないのにね。
それにしても、祐介と小林って仲がいいのね。知らなかった。
それに、こんなに楽しそうに笑う小林も見たことない。学校での彼が別人みたい。祐介にだけは心を許してるって感じがする。
……ん? なんか、視線を感じる。
それは、小林からだった。
私も彼を見ると、ぷいっと顔を祐介の方に戻した。
また暫くすると視線を感じたので見てみると、やっぱり小林。
今度はすぐには顔を背けない。
その表情は、悲しみ、うらやみが混じったような、複雑なものだった。
なんで私にそんな顔を向けるの?
その答えは後で判明することになるのだけれど、このときはまだ、彼の真意はわからず終いで終わるのだった。
−続く−
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